仕事を終えて帰る電車の中で、
「今日は、何か一つでも前に進めただろうか」
そんな問いが、ふと浮かぶことがあります。
忙しく動いていたはずなのに、
手応えが残らない日。
予定はこなしたけれど、
自分がどこへ向かっているのかは、少し曖昧なまま。
こうした感覚は、特別なものではないと思います。
むしろ、責任を引き受けながら働いている人ほど、
日常の中で何度も立ち止まるのではないでしょうか。
その中で、読書という行為に
「何かヒントがあるかもしれない」と感じることもある。
ただ、時間は限られていて、
分厚い本を一気に読む余裕はない。
今日は、
「本をどう読むか」ではなく、「どう付き合うか」
について、いまの自分なりに整理してみたいと思います。
読書の目的を、少し下げてみる
まず結論から書くと、
読書は、何かを成し遂げるための道具でなくてもいい
と、僕は考えています。
以前は、
「この本から何を学べるか」
「仕事にどう活かせるか」
そんなことばかりを意識して読んでいました。
もちろん、それが役立つ場面もあります。
ただ、忙しい日々の中では、
その期待自体が少し重く感じることもありました。
読み終わったあと、
「結局、何も身についていない気がする」
そう感じてしまうと、
本を開くこと自体が億劫になる。
そこで、目的を少し下げてみました。
・全部理解しなくてもいい
・腑に落ちなくてもいい
・仕事に直結しなくてもいい
「判断を軽くする材料が、ひとつ残れば十分」
そう考えるようになってから、
読書との距離が、少しだけ近づいた気がします。
早く読まない、最後まで読まない
もうひとつ、意識的に手放したことがあります。
それは、「早く読むこと」と「最後まで読むこと」です。
世の中には、
速読や要約の技術がたくさんあります。
効率を考えれば、合理的なのだと思います。
ただ、今の自分にとっては、
それが逆にノイズになることもありました。
一章読んだだけで、
妙に引っかかる一文があったり、
自分の状況と重なる表現に出会ったりする。
そんなとき、
ページを閉じて考える時間のほうが、
本を読み進めるより大切に感じることがあります。
だから最近は、
途中で読むのをやめることも、
同じ箇所を何度も読むことも、
特別なことだと思わないようにしています。
本は、最後まで読まなくても、役割を果たす。
そう考えると、
「読まなければ」という圧が、少し和らぎます。
印象に残った一行を、生活に置いてみる
読書メモについても、
以前よりずっと簡素になりました。
要約をまとめることは、
ほとんどしていません。
代わりにしているのは、とても単純なことです。
・気になった一行を書く
・なぜ引っかかったのかを、短く添える
それだけです。
たとえば、
「急がなくても、止まっていなければいい」
そんな一文が心に残ったとします。
それを読んだあと、
自分の一日を振り返ってみる。
今日の仕事は、止まってはいなかっただろうか。
焦って、視野が狭くなっていなかっただろうか。
答えを出す必要はありません。
ただ、その一行を
生活のどこかに、そっと置いてみる
それだけで十分だと思っています。
読書は、判断を増やさないためにある
ここで、もう一度結論を書きます。
読書は、選択肢を増やすためではなく、
判断を少し軽くするためにある。
忙しい毎日は、
決断と選択の連続です。
正解を探し続けるだけで、
心も頭も疲れてしまう。
本を読むことで、
「こうしなければならない」が増えると、
かえって苦しくなることがあります。
でも、
「こういう見方もある」
「そんな考え方も成り立つ」
そうした視点がひとつ増えるだけで、
判断の重さは、少しだけ和らぐ。
読書は、
自分を変えるための行為ではなく、
自分を追い詰めないための余白
そのくらいの位置づけで、
ちょうどいいのかもしれません。
学びは、急がないほうが残る
毎朝、満員電車に揺られながら、
「今日は少し成長した自分でいたい」
そう思う気持ちは、とても自然だと思います。
ただ、その成長は、
目に見える形でなくてもいい。
昨日より、判断が少し穏やかになった。
自分を責める回数が、一度減った。
それも、立派な前進です。
本は、
答えをくれる存在ではなく、
考えすぎた思考を、少し整えてくれる存在。
そう捉えられるようになってから、
読書は「やるべきこと」ではなく、
戻ってこられる場所に近づいた気がします。
まだ試行錯誤の途中ですが、
今のところは、
この距離感が、いちばん心地よく感じています。
今日の判断が、
ほんの少し軽くなっていたら。
それだけで、この本の役割は、
もう十分なのかもしれません。
いま読み返す意味のある一冊
最後に、一冊だけ本を紹介します。
『ワイド新版 思考の整理学』です。
もともとの『思考の整理学』は、1986年に刊行された本です。
書かれた時代を考えれば、
スマートフォンもSNSも、もちろんAIも前提にされていません。
それでも、この本は不思議なほど、
いまの環境とずれずに読めてしまいます。
理由は明確で、
この本が扱っているのが
情報の量や処理速度ではなく、
人が考えるときの「状態」や「時間」そのものだからです。
考えを寝かせること。
忘れること。
とにかく書いてみること。
すぐに結論を出さないこと。
どれも、情報過多で判断が重くなりがちな今だからこそ、
むしろ必要になっている視点だと感じました。
今回紹介したいのは、
その内容を引き継ぎつつ、
2024年にあらためて編み直されたワイド新版です。
活字が大きく、行間と余白にゆとりがあり、
急がず読めるつくりになっています。
読みながら立ち止まったり、
気になった言葉を書き留めたりするには、
この版のほうが向いていると感じました。
僕自身、
考えがまとまらないときに
「いまは無理に整理しなくていい」と
一度立ち止まれるようになったのは、
この本の影響が大きいです。
何かを足すよりも、
判断を急がない選択ができたことのほうが、
結果的に仕事でも日常でも役に立っていました。
すべてを理解しなくてもいい。
順番に読まなくてもいい。
途中で閉じてもかまわない。
それでも、
どこか一章、一行が残り、
後日の思考を少しだけ整えてくれる。
学びを増やすための本というより、
考えすぎた頭を落ち着かせたいときに、
静かに寄り添ってくれる一冊です。



